あけてくれ

奇妙な話を記録するためのブログ。大部分が自分のネタで、他人のネタはそのことを明示しています。

ついてくる謎の足音をお祓い→その意外な真実

お月様どうぞ

 

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Photo by:y*****************************m/写真AC
 
 
 
信じてもらえるかわからないんですが、小さい頃からときどき何かに後をつけられるんですよね。
 
最初に後をつけられたのは、わたしがまだ○○(地方の某地域)にいたころ。幼稚園くらいだったそうです。わたし自身は覚えてないんですけど、聞いた話だと母と実家の近くの田んぼ道を散歩した帰りのことだったそうです。
 
母がわたしの手を引いて歩いていると、わたしが何度も後ろを振り返るんです。母は不思議に思って「どうしたの?」って聞くと、わたしが「ぺたぺたさんがきてる」と。
 
母が「ぺたぺたさんって何?」と聞くと、わたしは何やら一生懸命説明してくるらしいんですけど、幼稚園児の説明ですからね。母にはなんのことかよくわからなかったそうですが、ぺたぺたという足音が後ろからついてきてるらしいことはわかったそうです。
 
気味が悪いなと思いながらも、いわゆる「想像の友達」みたいなものかなと思ってそのまま家に帰ろうとしたんですが、その間もわたしは何度も振り返るので母も怖くなってきたらしくて。家に帰ったところで祖母に、笑われるのを覚悟でそのことを相談したらしいんです。
 
 
でも、祖母は笑いませんでした。
それどころか、すぐにわたしをいそいそと抱えあげると靴も履かせずに家の外に出して、慌ててついてきた母に振り返って「今からこの子△△に行って、なるべく人の多いところで“お月様どうぞ”って手を合わせてお祈りしてきな」と言ったそうです。
 
 
△△っていうのはうちから車で40分ほど走ったところにある街でして。商業施設とか飲食店とかが集まる繁華街もある周辺では一番大きな街でした。
 
 
母はなんのことかよくわからなかったそうですが、祖母があんまりに真剣なので何も言えず。わたしに靴をはかせて、車に乗せて〇〇まで行ったそうです。そうして、駅前の雑踏のなかで、わたしに祖母から言われたとおり「お月様どうぞ」とお祈りさせたそうです。
 
その帰り道、わたしに聞くと「ぺたぺたさん」はもうついてきていなかったそうです。
 
 
 
それから後も、わたしは1〜3年に1回くらいのペースで「ぺたぺたさん」に後をつけられました。その度、わたしは祖母の言いつけとおり、〇〇に行ってお祈りをして帰る。自分ひとりで〇〇に行けるようになってからも、それを繰り返していました。
 
 
「ぺたぺたさん」の正体は何なのか、祖母に質問したこともありました。でも、祖母もよくわからないようでした。ただ、昔からそうなる人がたまにいること、家につれて帰らずにお祈りだけすれば、害はないことだけを教えてくれました。
 
 
その後、祖母もなくなり、わたしも大学進学を機に東京に出てきました。東京に来ればさすがに実家からも距離があるから大丈夫かな、と思ったのですが、相変わらず「ぺたぺたさん」は私についてくるようでした。しかも、最悪なことに大学のテニスサークルの合宿中に現れたんです。
 
 
 
サークル合宿の場所は東京のとある離島でした。合宿って言っても、ほとんどグループ旅行みたいなもので。テニスの練習なんてほんの数時間。あとはみんなで海で遊んだり、温泉に入ったりして過ごしていたんですけどね。
 
ひとしきり海で遊んで、車で合宿所に戻った…その時でした。
車から下りると、後ろから「ぺた」って聞き慣れた音が聞こえるんです。
 
うわー、今か…って正直思いました。
日も暮れてるし、これからみんなで晩ごはん食べるってタイミングでしたからね。急に抜け出してお祈りに行ったりしたら、変に思われますよ。第一、土地勘もないから人の多い場所なんてどこにあるかわからないし、そもそもあちこちの店が閉まっていくこの時間に人気が多い場所なんてあるのかどうか。
 
悩んでたら、ふと思いついたんです。
そういえば、わたし、今、人気のある場所にいるじゃんって。
だから、その場でこっそり小さく手を合わせて、「お月様どうぞ」ってつぶやいたんです。
幸い誰にも気づかれずお祈りは終わり、ぺたぺたという音もやんでいました。
わたしは安心して、そのままみんなのあとに続いて合宿所に戻りました。
その日はそのままお風呂に入って、夕食を食べて、みんなでお酒を飲んで……普通に合宿の夜を楽しみました。
 
 
 
しかし、翌朝、サイレンの音でめをさましました。サイレンの音は徐々にこちらへ近づいてきて、合宿所の前で止まりました。
何事かと思っていると、同じ部屋の子たちも不安げに起き上がりました。やがて廊下が騒がしくなったので、部屋を出てみると救急隊員が担架を担いでやってきたところでした。
他の子に話を聞くと、男子学生のMくんが今朝、布団のなかで息をしていない状態で見つかったのだといいます。そのままMくんは担ぎだされて病院に搬送されましたが、もうすでに亡くなっていたそうです。
 
もちろん合宿はその場で中止。
警察も来て事情聴取などされましたが、死の原因は不明。特に争った形跡などもなかったので、事件性はないとしてわたしたちは身元だけ警察に伝えて、予定通りに帰宅することになりました。
 
 
帰りのフェリーは、ほとんどお通夜の会場でした。みんな俯いたまま言葉少なで、女子の中には泣き出す子もいました。
 
 
「何があったんだろう」
Mくんは昨日も海でビーチバレーやったりして元気だったので、誰もがその死を信じられないようでした。Mくんがどんな様子だったか、同室の男の子たちはお互いに聞きあっていました。
 
でも、実をいうと、私には少し心当たりがありました。
 
昨日のあの後…。
 
わたしがお祈りをして「ぺたぺたさん」をお祓いした後、ふと見るとMくんがしきりに後ろを振り返っていたんです。
訝しげな様子で、何度も、何度も…。
 
 
もしかして、あのお祈りは「ぺたぺたさん」を祓うお祈りじゃなくて、憑き物を近くの人に移すおまじないだったのでは?
 
あのお祈りの言葉は「お月様どうぞ」ではなく、「お憑きさまどうぞ」だったのでは?
 
 

【怪談・怖い話】肝試しに行って人が変わってしまった友人

誰かいる

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Photo by:omatsu777/写真AC



 

イチカワさんが、小学生だった90年代はちょうど第二次オカルトブームの真っ最中だった。

ゴールデンタイムのテレビは、連日連夜UFOや都市伝説、怪奇現象を放送し、全国の小学生がそれに夢中になっていた。

 

もちろん、イチカワさんとて例外ではなく、昼間は『学校の怪談』を読み漁り、夜にはテレビのオカルト番組を見るのが日常となっていた。

 

そんなイチカワさんが、隣町にある廃屋への肝試しを計画するのは必然だった。

クラスメイトのフクダくんが教えてくれたその廃屋は、夜になると交通量がぐっと減る旧街道沿いに面していて、肝試し向きだった。

イチカワさんは仲のよい友人に声をかけて、相談の末にある夏の日にその廃屋へ行くことに決めた。

 

その日は、ちょうど「しし座流星群」が夜空にきらめくという日だった。

当時テレビでは「しし座流星群が33年ぶりに地球に大接近する」というのが話題になっていて、天体観測に行くと言えば夜間の外出も許可されやすかったのだ。

 

イチカワさんを含む男子5人組は、一度フクダくんの家に集まり、テレビゲームをしながらその時を待った。

 

そうして深夜。

5人は予定通り、自転車に跨がりフクダくんの案内のもと自転車を走らせた。

30分ほど走っただろうか。フクダくんは自転車を停めた。

「ここだよ」

彼の前には、打ち捨てられたボロボロの平屋建ての廃屋があった。

びっしり巻き付いた蔦のカゲからトタンの屋根と木造の壁が辛うじて覗いている。

周囲から切り離されるようにポツンと建っているその廃屋には、周辺の木々が暗い影を落としていて、まるでお化け屋敷のようだった。

 

「うわ、やべぇ」

誰かがそういう声は、ひどく弱々しかった。無理もない。

思えば、今までこんな場所はテレビの怪奇リポートでしか見たことがない。

いざ、ホンモノを目の前にすると、ひどく薄気味が悪いものだった。

できれば入りたくない。正直、イチカワさんはそう思った。

 

みんなが廃屋に入るのを躊躇していると、フクダくんは背負っていたリュックから懐中電灯を取り出して言った。

「中に入ってみよう」

みんなは一瞬怯んだが、子供なりのプライドだろう。誰も「嫌だ」とは言わず、各々、懐中電灯を取り出した。イチカワさんもそれにならったが、正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

「誰かに見つかったら怒られるよ。やめよう」

それらしい言い訳をつけて、肝試しを中止させにかかったが、みんなはそれを受け入れなかった。

 

「鍵が閉まってて、どうせ入れないよ」

イチカワさんはなおも食い下がったが、侵入口は予想以上にすぐに見つかった。

裏にある勝手口の鍵が開いていたのだ。

「入ろう」

ここでもやはりフクダくんが先頭になって、ひとりでさっさと中へ入っていく。

ひとり、またひとりと中へ入っていくのを見て、イチカワさんの恐怖はいよいよピークに達した。

 

 

「俺は入らない! 怒られても知らないからな!」

最後に残った友人のひとりにそう言って、イチカワさんは街道沿いの道へ戻った。

ひとりになるのも心細かったが、中に入るより、その場で待つよりよほどマシに思えた。街道沿いはまだ街灯に照らされていて明るかったからだ。

 

しかし、誰もイチカワさんにはついてこない。どうやらみんな、肝試しを続行するつもりらしい。いよいよイチカワさんも心細くなった。

 

自転車でひとり元来た道を戻るべきだろうか。少し行けばコンビニがあったはずだ。そこで立ち読みでもしながら、みんなの自転車が来るのを待とうか。

 

 

 

「うわうわうわうわ!」

 

そんなことを考えていると、廃屋のなかから叫び声が聞こえてきた。

どうやらフクダくんの声らしい。廃屋のなかではフクダくんを心配しているのだろう。みんなが口々に「どうした」「大丈夫か」などの声をあげている。

 

イチカワさんが急展開にその場でフリーズしていると、やがてドタドタという足音とともにフクダくんがこちらへ走ってきた。その後を追うように、みんなもついてくる。

フクダくんは血走った目でイチカワさんを見ながら

「誰かいる! 誰かいる!」

そう繰り返している。

 

「誰かって? 誰もいなかったよ」

追いかけてきた友達のひとりが、そう言ってフクダくんの肩を押さえてなだめようとする。しかし、フクダくんはそれを振り払うように言う。

 

 

「いるんだって! 俺のなかに!」

 

 

イチカワさんは一瞬、呆気にとられた。ほかのみんなも同様だった。

 

結局、そのままフクダくんは自転車に乗ってひとりでさっさと帰ってしまった。

みんなも追いかけたが、結局、見失ってしまいその日はそのまま解散することになった。

 

 

あんな状態のまま別れてしまったフクダくんはどうなっただろうか。

「中にいる」と言っていたけど、もしかして霊に取り憑かれたりしたのだろうか。

イチカワさんはひどく心配になった。

 

 

翌朝、フクダくんは普通に学校に来た。

フクダくんは特に体調が悪いようでも、錯乱しているようでもなかった。

今までとおり、みんなや先生と普通に会話をしていたし、遊びにも授業にも問題なく参加していた。その後も、フクダくんは普通に学校を生活を送っていたという。

あの夜の出来事はただのイタズラだったのかもしれない。

 

しかし、イチカワさんには、どうしてもそうは思えなかった。

むしろ、なぜ、フクダくんがごく普通に学校生活を送れているのかが不思議でならなかった。なぜ、みんながフクダくんを普通に受け入れているのかわからなかった。

 

 

なぜなら、その朝以降、

フクダくんの顔は、見知らぬ中年男性の顔に入れ替わっていたからだ。

【怪談】玄関越しに「あけてくれ」という声を無視した結果

大勢で怖い話をしていると、ごくたまに変なことが起こる。
 
誰が語ったのかわからない話が、紛れ込むのだ。 
 
たしかに聞いたはずなのに、誰が話していたかがはっきりしない。参加者にひとりずつ心当たりがないか聞いてみても、誰もわからないという。
話自体には覚えがあるのに、誰が話していたかがわからない。思い出そうとしても、まるで靄がかかったみたいに思い出せないというのである。
 
主をなくした体験談。これもそんな話のひとつである。
 
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 あけてくれ

 

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Photo by:MICHY 写真AC
 
20年くらい前かなぁ。
当時イイ感じだった女の子の家で同棲することになったんです。きっかけは彼女が不審者に悩んでいたこと。
 
会社から帰るとき、マンションの前で変な人に追いかけられることがあるっていうんです。
 
で、すぐに引っ越すつもりなんだけど、とりあえずそれまで怖いから泊まってほしいと。
 
それで、仮の同棲生活が始まったんです。急だったんで、ほとんどオレが転がりこんだような状態でしたけどね。
 
最初の2日間は何事もなく、ふたりで同棲生活を楽しんでたんですよ。
べつに妙なものも見ないし、彼女も見たという話もしない。平和なものでした。
 
何だ楽勝だなって思ってたら、次の日の夜。
オレが部屋にひとりでいたときのことです。
彼女の帰りが遅いんで心配してたら、誰かが玄関のドアノブをガチャッとひねって開けようとしたのに気づきました。
 
 
一瞬、彼女かな、と思ったんですが、どうやらそれも違う。
 
だって、ドアが開かないってわかったら、今度はチャイムを連打しながら、ドアを外からガンガンガン叩くんですよ。
 
不審に思っていたら、次の瞬間ドアの向こう側から声が聞こえてきたんです。
それは男の声でした。
「あけてくれ!」
知り合いが訪ねてきのかな、とも思いました。聞き覚えがある声のような気がしたんです。
 
でも、オレと彼女には共通の男友達とかもいないし、仮に知り合いだとしてもこんな時間に突然やってきて彼女の部屋に押し入ろうするなんて、普通じゃないですよね。なんか怖いじゃないですか。
そもそも知り合いによく似た声なだけかもしれない。
彼女から不審者の話は聞いてたし、もしかしたらソイツかもしれないてしょ?
 
だから、息を潜めてたんです。
彼女に頼られた手前、同居したはいいものの、やっぱり怖いじゃないですか。
べつに腕っぷしに自信があるわけでもないから、やり過ごせるならできるかぎりやり過ごしたいですもん。
 
でも、男はドアをしつこく叩いて「開けてくれ」と叫んでくる。時間にして10秒もなかったんだと思うけど、ああいうときって長く感じるもんで。
もう怖くて仕方なかったんで、つい耐えきれなくなって言っちゃったんです。
「やめろ! どっか行けよ!」
 
そしたら、ドアを叩く音がスッと止んだ。
ーーで、ちょっとしてから「えへえへ」って気の抜けた笑い声みたいなのが通り過ぎるように聞こえて、また消えていったんです。
 
慎重に音をたてないようにしてドアの前に立って、覗き窓からドアの向こう側を見たんだけど、そこには誰もいない。チェーンをつけておそるおそるドアを開けてみても、やはり誰もいませんでしたし、物音ひとつしませんでした。
 
そのすぐ後に彼女も帰ってきたんだけど、もちろん彼女は今帰ってきたばかりだし、男のことなんか知らない、心当たりないと答えました。
じゃ、やっぱりあれが不審者だったのかも。もしも、あのとき、開けてたら…ってふたりで話して、ひどく不安になりました。
 
 
その後、また数日は平和に過ごしていたんですけど、ついに引っ越しを翌日に控えた夜のこと。
 
ふたりで引っ越しの準備をしている最中、オレは彼女を残して近所のコンビニに買い物に行ったんです。
そしたら、帰り道「えへえへ」って例の笑い声が後ろから聞こえてくるんですよ。
 
不意に振り返ると、マンションの前の一方通行に人影が見える。でも、暗い道だからなのか、全然相手の姿がよくわからない。人影でしかないんです。
 
「ヤツだ」
誰かはわからないけど、扉の向こうにいた不審者なのには間違いないですからね。
とりあえず、怖いから走って逃げましたよ。
残りの帰り道を全速力で走り抜けて、マンションのエントランスに入ってエレベーターのボタンを押しました。
でも、そんなときに限ってエレベーターがなかなか来なくて。そんな間にも「えへえへ」って笑い声はどんどん近づいてくる。
振り返ると、もうエントランスの扉の向こうに人影があるんですよ。
 
間に合わない!
そう思って、エレベーター横にある階段を駆け上がることにしました。
部屋は4階だったのでそこそこ大変だったけど、必死だったので辛いと感じるよりも先に部屋の前に着いていましたね。
 
それで、急いで玄関のドアを開けようとするんだけど、部屋には彼女ひとりなんで当然鍵がかかってる。
オレは鍵持って出てなかったんで、早く開けてほしくて、チャイムを連打するように鳴らしました。ドアも死にものぐるいで叩いて、気づいてもらおうと必死でした。
 
そうこうしてるうちにも階段をのぼる足音と「えへえへ」って声は近づいてきてました。どうやら、もうこの階に到達しようとしているようでした。
 
オレは必死に叫びました。
「開けてくれ!」
 
 
そう言うと、ドアの向こうから聞き覚えのある声がしたんです。あのとき、オレがドアの向こうで聞いた男の声でした。
「やめろ! どっか行けよ!」

【怪談・怖い話】姿見から聞こえてくる声に誘われかけた

姿見のある部屋

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Photo by:Toraemon/写真AC
小学6年生のマサノリくんの家には、曾祖母の代から受け継いだ古い姿見が残されている。
 
大正時代のものだという姿見は、ところどころくすんでいて実用性には程遠い保存状態らしく、普段は倉庫代わりにしてる四畳半の洋間に置きっぱなしになっているという。
 
しかし、マサノリくんはこの姿見が怖くて仕方ないのだという。
なんでもマサノリくんによれば、家にひとりでいるとたまにあの部屋から
「おーい」
という声が聞こえてくるのだそうだ。
声は野太い中年男性の声のようだが、聞き覚えがない。
抑揚のないトーンの発声が妙に不気味だった。
 
初めて聞いたのは、小学3年生の頃だ。
その時は不審者が潜んでると思って慌てて家の前まで出て、家の向かいにある児童公園に逃げ込んで母の帰りを待ったらしい。
しばらくして母親が帰宅したので駆け寄って事情を説明すると、母親は訝しみながらも一緒に姿見のある部屋を確認しに行ってくれた。
 
しかし、そこには人影はなく、ただ薄汚れた姿見だけが、鈍い輝きを放ってそこに立っていたという。マサノリくんはなぜか声の主が、その姿見に違いないと確信したのだそうだ。
 
とは言え、そんな話を信じてもらえるわけもない。
母親も父親も、中学生の姉もそんな声を聞いたことはなかったので、結局、声はマサノリくんの聞き間違いか、せいぜい近所の声が漏れ聞こえてきたんだろう、ということになった。マサノリくんも姿見が話す…なんてことよりも、そっちの方がより現実的なことは理解していたので、それで納得した。その時はーー。
 
しかし、それからも3ヶ月に1度くらいのペースで、姿見に呼びかけられたという。
そして、その声がするのは必ずマサノリくんが一人でいるときだけだった。
何度か聞くうちにやはり声は聞き間違えなどでもなければ、近所から漏れ聞こえてくるものでもないことがわかってきたそうだ。
姿見は、向こう側から確実にマサノリくんに語りかけてきていたのだ。
当初から不気味なものを感じていたマサノリくんだったが、姿見が自分に執着しているかのように思えて、ますます「反応してはいけない」と思ったという。
 
そうして、すでに3年が経った。
その間に何度か姿見を捨ててほしいと両親に頼んだが、父親は「姿見が話すわけがないだろう」「曾祖母(ひいばあ)ちゃんが悲しむぞ」と言って全く取り合ってくれない。母親は多少マサノリくんに同情的だったが、父親に気を使っているのか「気のせいだから忘れなさい」と言うのみで、姉にいたってはマサノリくんの病気を疑ってきたという。なので、マサノリくんもいつしか諦めて、なるべくひとりの時は姿見に近寄らないことに決めて過ごしているという。
 
今ではマサノリくんもすっかり声には慣れてきていた。
未だに考えると不気味なものはあったが、べつに反応しなければどうということはない。姿見のある部屋に入る用事などめったにないし、仮にどうしても手伝いなどで入らなければならないとしても、誰かと一緒に行けば問題ないことは経験からわかっていた。最終的には「おーい」と呼びかける声を聞きながら、リビングでテレビゲームができるくらいには図太くなっていたそうだ。
 
そして、先日。
マサノリくんはその日、学校から帰宅した後、すぐさまリビングに移動して、ハマっていたテレビゲームの電源を入れた。リビングに居合わせた母親からは「またゲーム?」と嫌味を言われたが、やりたいものは仕方ない。無視してゲームを楽しんだ。
 
しかし、その日は疲れていたのだろう。
マサノリくんはゲームをしているうちに眠くなってしまい、結局ゲームを中断してそのままリビングのソファで居眠りを始めてしまったという。
 
どれくらい時間が経っただろうか。
マサノリくんは自分を呼ぶ声で目を覚ましたという。
「マーくん、マーくん! ちょっと手を貸して」
その声は母親の声だった。マーくんとは、母親がマサノリくんを呼ぶときの愛称だった。声は姿見のある部屋から聞こえてくる。
「マーくん? ちょっとお願いー。手伝ってー」
荷物でも運び出すのかな。
最近は小柄な母親よりも体格がよくなって、力仕事を任せられることも増えてきたマサノリくんは、部屋に繋がるドアノブに手をかけた。
その瞬間である。
 
左手の先、玄関の方でドアがガチャッと開く音とともに、聞き慣れた声が飛び込んできた。
 
「ただいまー」
振り向くと玄関に買い物袋を下げた母親の姿があった。

【怪談・怖い話】カラオケ店のバイト中に見た赤いマニキュアの手

真っ赤なマニキュア

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Photo by:紺色らいおん/写真AC
10年以上前のことだ。
当時学生だったわたしは、近所のカラオケ店でアルバイトしていた。
誰もがよく知るチェーンの大型カラオケ店である。
わたしはそこで主にドリンクの提供と清掃を担当していた。
 
ある日のこと。
お客さんが退室したことを確認したわたしは、空室になったばかりの207号室へひとりで向かった。
 
従業員用の階段を上がり、廊下へ出る。
わたしの目の前をまっすぐに伸びる廊下。その3m程先、左手の壁に207号室の扉はある。
 
わたしは廊下の端に置かれた清掃用のカートを押すと、視線を207号室の方へ向けた。その時である。
 
207号室に入っていく人影が見えた。
 
いや、正確には見えたのは手だけだ。
真っ赤なマニキュアを塗った、華奢な女の手がドアの向こう側に消えていくのを見た。
「忘れ物かな」
 
たまに退室後も客が忘れ物を取りに戻ってくることはある。すぐ出てくるだろうから、と待つことにした。
今どうせ入っても清掃はできないし、相手にバツの悪い思いをさせることもないだろうと思ったのだ。
 
「ぼぼ、ぼっ、ぼぼっ、ぼぼぼっ」
と、部屋からマイクに息を吹きかけた時のような大きなブレス音が聞こえてくる。
一瞬ぎょっとしたが、おおかた質の悪い客が仲間を会計に行かせて部屋に残ってふざけているのだろうと思い直した。
そういえばさっきからカラオケの演奏音が続いたままだ。
 
一昔前に流行したテクノ系のポップス曲だ。
選曲からして、そう若くもない客だろうに何をくだらない悪ふざけしているんだか…。
 
少し憤りを感じたわたしは部屋に突入してやることにした。会計後に部屋に居座ってる現場をおさえて、注意のひとつでもしてやろう。そんな風に思ったので、ドアを勢いよく開けてやった。
 
と、扉を開けた途端、部屋は急に静まり返った。
マイクの異音は止まり、先ほどまで流れていた演奏も中止させられたらしく薄く残りの
 
 
メロディが流れているのみだ。
 
 
しかし、何よりわたしを呆然とさせたことがある。
 
 
それは、室内に誰もいなかったことだ。
 マイクは電源がついたまま、床に転がっていた。

【怪談】「わたしね、人を殺したんです。ゆうべ」

夢のなかの殺人

 
 
これは、わたしが昔運営していた怪奇系のホームページ宛に、数年前に送られてきていたメールだ。
 
どうやら自分の体験談を書いたものらしいが、しばらく放置していたのでメールの存在には気づけずにいた。
 
妙な話なので、詳しいことを聞くために返信しようとしたが、メールアドレスが間違っているのか、結局送れなかった。
 
 
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わたしね、人を殺したんです。ゆうべ。
 
って言っても、夢の話ですよ?
さすがに現実だったら、殺せないです。
怖いし、残酷だし、気持ち悪いし…とてもじゃないけど、できません。
でも、夢なら感覚もないし、現実じゃないから…ね。
 
あ、でも、べつに楽しんでたわけじゃないですよ?
わたしだって、できれば人殺しなんかしたくないですもん。夢のなかとは言っても、やっぱり嫌ですよ。
 
じゃあ、なんで殺したのかって話ですよね。
それは少しややこしい話になるんで、順を追って説明しますね。
 
わたし、数年前に別れた元カレがいまして。
今は何してるのかもどこにいるのかもわからないし、それこそ死んじゃってても気づかないくらい疎遠なんですけど、夢の中には別れたあともよく出てきて。
普通に付き合ってた時みたいに、いっしょに過ごすんですよ。
 
最初は夢だから、わたしも特に違和感はなかったんです。
夢ってそうじゃないですか?
現実的じゃないことが起きていても、夢を見ている最中って気づけないですよね。
 
 
 
でも、ある日、気づいてしまって。
明晰夢っていうんですかね。それからは内心、夢だってわかりながら、元カレとお喋りしたり、遊んだりしてたんです。別れたのにおかしいかもしれないけど、正直、未練もあったから普通に楽しんでました。
 
元カレとは最終的に音信不通になってたんで、現実だったら絶対許せないと思うんだけど、夢だしいいかーって。夢のなかだとまだ付き合ってた頃の仲がいいカップルのままでいられたんで、すごい心地よかったんですよね。
 
だから、2〜3ヶ月に1回…くらいかな。
夢のなかで元カレと会ってたんですけどね。
 
 
だんだん、嫌になってきたというか。
 
 
っていうのも、わたし、半年前に新しい彼氏ができて今とてもいい感じなんで。
夢のなかに元カレが出てきてもあんまり嬉しくなくなっちゃって。
 
 
 
新鮮味もないし、ときめかなくなってるし、あと、まぁ、今の彼氏にも悪いし、もういいかなーって思ってしまったんですね。
 
そういうこともあって、わたし、ゆうべは気まぐれで元カレに言ってみたんですよ。
「これ夢だよね」
って。
 
そう言うと、元カレは動揺していました。
なんのことかわからないって感じだったように思います。
はじめはヘラヘラしてたんですけど、わたしが真剣ってわかると、急に怯えたようになって。
しきりに「本気で言ってんの?」「意味わかんない」って言うんです。
 
 
 
夢なんだからもっと察しがよくてもよさそうなのに、元カレは終始怪訝そうで。
明晰夢のなかでは何でもできるっていうけど、あれ嘘ですね。
 
夢のなかの元カレはこれまでも思い通りになんかなりませんでしたけど、今回もそうでした。結局、いくら話し合っても彼を納得させられないんですよ。
 
 
で、面倒くさいからもう最後は「いいから、もう夢に出てこないで。
新しい彼氏がいるから」って吐き捨てるように言って、その場を去ろうとしたんです。
そしたら、元カレが怒っちゃって。
 
「浮気してるのか」って、わたしに詰め寄るんですよ。
 
で、ムカついちゃって。
浮気も何もとっくに別れてるし。
ていうか、現実には浮気したのアンタだし。
そのうえ、音信不通になって、わたしを放置したのアンタだし。みたいな。
 
 
 
それこそ現実では言えなかったことバーーって言ってやったんです。
 
でも、夢のなかの元カレは経緯がわかってないみたいだから、全然話が噛み合わないんですよ。
 
 
 
で、元カレがなんか急に怒り出してわたしを殴って、首締めてきたんで。
夢なんでべつに痛くも苦しくもないんですけど、さすがに怖くなってきたんで。
その場にあったハサミをつかんで、元カレの首に突き立てて殺したんです。
 
 
夢だからかな。
不思議と血はでなくて、すぐ元カレはその場に倒れて動かなくなりました。
床に力なく転がった元カレの死体は、苦痛というより驚いたような表情を浮かべていたのをよく覚えています。
 
 
目が覚めてから、最後に見た元カレの顔を思い出したんですけど、なんかまるで現実みたいだったんです。
それで、思ったんです。
もしかして夢のなかの元カレは、本当に夢のなかでは生きてたんじゃないかなって。
 
 
つまり、夢のなかの元カレは本当に自分が生きてるって思い込んでて、それまでの人生の記憶とか持ってそこに存在していたんじゃないかって。
だから、元カレは明晰夢なのにわたしの思う通りにはならないし、夢だってわたしが言っても全く理解できなかったんじゃないかなって。
 
 
でも、仮にそうだとしたら、わたしが夢から覚めると、どうなるんでしょうね?
夢のなかの元カレって、目を覚ますたびに消えちゃってたんですかね?
で、また元カレの夢を見るたびに生まれて、また消えて…って繰り返してたとか?
 
 
うーん、わからない。
どのみち、真相は夢のなかの元カレでもないかぎりは、わからないし、知ったところで怖いから嫌ですよね。
 
 
ところで、わたし、この話を夢のなかで書いてるんですよね。
 
誰か読んでます?

【伝説】水曜どうでしょう 藤村D・嬉野Dが四国八十八か所の怪現象の真相語る

この話はほかの人の話をまとめたものです。

【伝説】水曜どうでしょう 藤村D嬉野D四国八十八か所の怪現象の真相語る

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Photo by:n************************m/写真AC

水曜どうでしょう』の企画「四国八十八ヶ所Ⅱ」。

2000年4月12日から5月3日かけて放送され、DVDでは第19弾に収録された同企画は、四国八十八ヶ所巡礼を弾丸スケジュールで強引に達成するというものだ。

 

 前年に行われた第1弾ではわずか3泊4日、時間にして74時間という超短時間で完全巡礼を敢行し、大泉洋が体調を崩すなどの犠牲を払いながらも失敗*1。 その失敗を受けて、通行止めを避けるために春にスケジュールを設定、日数を前回よりも1日増やした4泊5日で巡礼を行った。

 

その顛末についてはDVDをチェックしていただくとして、今回、ここではその放送内で語られた「怪奇現象」の存在について嬉野D(ディレクター)自身の口から語られたので、それをまとめたい。気になる方は続きを読む、をクリックしていただきたい。

(すでにご存知の方も多いかもしれないが、未だに視聴者から質問が続いている状況のようなので、まとめる)

 

 

*1:「ロープウェイに乗れない」「冬季通行止め」などのアクシデントに遭って21番太龍寺、66番雲辺寺、60番横峯寺、20番横峯寺を巡礼できず、完全巡礼とはならなかった。

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