あけてくれ

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【怪談・怖い話】肝試しに行って人が変わってしまった友人

誰かいる

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Photo by:omatsu777/写真AC



 

イチカワさんが、小学生だった90年代はちょうど第二次オカルトブームの真っ最中だった。

ゴールデンタイムのテレビは、連日連夜UFOや都市伝説、怪奇現象を放送し、全国の小学生がそれに夢中になっていた。

 

もちろん、イチカワさんとて例外ではなく、昼間は『学校の怪談』を読み漁り、夜にはテレビのオカルト番組を見るのが日常となっていた。

 

そんなイチカワさんが、隣町にある廃屋への肝試しを計画するのは必然だった。

クラスメイトのフクダくんが教えてくれたその廃屋は、夜になると交通量がぐっと減る旧街道沿いに面していて、肝試し向きだった。

イチカワさんは仲のよい友人に声をかけて、相談の末にある夏の日にその廃屋へ行くことに決めた。

 

その日は、ちょうど「しし座流星群」が夜空にきらめくという日だった。

当時テレビでは「しし座流星群が33年ぶりに地球に大接近する」というのが話題になっていて、天体観測に行くと言えば夜間の外出も許可されやすかったのだ。

 

イチカワさんを含む男子5人組は、一度フクダくんの家に集まり、テレビゲームをしながらその時を待った。

 

そうして深夜。

5人は予定通り、自転車に跨がりフクダくんの案内のもと自転車を走らせた。

30分ほど走っただろうか。フクダくんは自転車を停めた。

「ここだよ」

彼の前には、打ち捨てられたボロボロの平屋建ての廃屋があった。

びっしり巻き付いた蔦のカゲからトタンの屋根と木造の壁が辛うじて覗いている。

周囲から切り離されるようにポツンと建っているその廃屋には、周辺の木々が暗い影を落としていて、まるでお化け屋敷のようだった。

 

「うわ、やべぇ」

誰かがそういう声は、ひどく弱々しかった。無理もない。

思えば、今までこんな場所はテレビの怪奇リポートでしか見たことがない。

いざ、ホンモノを目の前にすると、ひどく薄気味が悪いものだった。

できれば入りたくない。正直、イチカワさんはそう思った。

 

みんなが廃屋に入るのを躊躇していると、フクダくんは背負っていたリュックから懐中電灯を取り出して言った。

「中に入ってみよう」

みんなは一瞬怯んだが、子供なりのプライドだろう。誰も「嫌だ」とは言わず、各々、懐中電灯を取り出した。イチカワさんもそれにならったが、正直、逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

「誰かに見つかったら怒られるよ。やめよう」

それらしい言い訳をつけて、肝試しを中止させにかかったが、みんなはそれを受け入れなかった。

 

「鍵が閉まってて、どうせ入れないよ」

イチカワさんはなおも食い下がったが、侵入口は予想以上にすぐに見つかった。

裏にある勝手口の鍵が開いていたのだ。

「入ろう」

ここでもやはりフクダくんが先頭になって、ひとりでさっさと中へ入っていく。

ひとり、またひとりと中へ入っていくのを見て、イチカワさんの恐怖はいよいよピークに達した。

 

 

「俺は入らない! 怒られても知らないからな!」

最後に残った友人のひとりにそう言って、イチカワさんは街道沿いの道へ戻った。

ひとりになるのも心細かったが、中に入るより、その場で待つよりよほどマシに思えた。街道沿いはまだ街灯に照らされていて明るかったからだ。

 

しかし、誰もイチカワさんにはついてこない。どうやらみんな、肝試しを続行するつもりらしい。いよいよイチカワさんも心細くなった。

 

自転車でひとり元来た道を戻るべきだろうか。少し行けばコンビニがあったはずだ。そこで立ち読みでもしながら、みんなの自転車が来るのを待とうか。

 

 

 

「うわうわうわうわ!」

 

そんなことを考えていると、廃屋のなかから叫び声が聞こえてきた。

どうやらフクダくんの声らしい。廃屋のなかではフクダくんを心配しているのだろう。みんなが口々に「どうした」「大丈夫か」などの声をあげている。

 

イチカワさんが急展開にその場でフリーズしていると、やがてドタドタという足音とともにフクダくんがこちらへ走ってきた。その後を追うように、みんなもついてくる。

フクダくんは血走った目でイチカワさんを見ながら

「誰かいる! 誰かいる!」

そう繰り返している。

 

「誰かって? 誰もいなかったよ」

追いかけてきた友達のひとりが、そう言ってフクダくんの肩を押さえてなだめようとする。しかし、フクダくんはそれを振り払うように言う。

 

 

「いるんだって! 俺のなかに!」

 

 

イチカワさんは一瞬、呆気にとられた。ほかのみんなも同様だった。

 

結局、そのままフクダくんは自転車に乗ってひとりでさっさと帰ってしまった。

みんなも追いかけたが、結局、見失ってしまいその日はそのまま解散することになった。

 

 

あんな状態のまま別れてしまったフクダくんはどうなっただろうか。

「中にいる」と言っていたけど、もしかして霊に取り憑かれたりしたのだろうか。

イチカワさんはひどく心配になった。

 

 

翌朝、フクダくんは普通に学校に来た。

フクダくんは特に体調が悪いようでも、錯乱しているようでもなかった。

今までとおり、みんなや先生と普通に会話をしていたし、遊びにも授業にも問題なく参加していた。その後も、フクダくんは普通に学校を生活を送っていたという。

あの夜の出来事はただのイタズラだったのかもしれない。

 

しかし、イチカワさんには、どうしてもそうは思えなかった。

むしろ、なぜ、フクダくんがごく普通に学校生活を送れているのかが不思議でならなかった。なぜ、みんながフクダくんを普通に受け入れているのかわからなかった。

 

 

なぜなら、その朝以降、

フクダくんの顔は、見知らぬ中年男性の顔に入れ替わっていたからだ。