あけてくれ

奇妙な話を記録するためのブログ。大部分が自分のネタで、他人のネタはそのことを明示しています。

おーいのおじさん

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Photo by;もんでん/写真AC


幼いころ、ぼくのそばには「おーいのおじさん」がいました。

 

「おーいのおじさん」というのは、その名の通り、ぼくと遭遇する度に「おーい」と抑揚のない無機質な声で呼びかけてくるおじさんです。

 

こう言うと、まるで「近所の変なおじさん」みたいに聞こえるかもしれませんが、そうではありません。おじさんは都市伝説などでよく語られる「ちっちゃいおじさん」のようなもので、立った状態でもだいたい15cmほどのサイズしかなかったと記憶しています。要は“異形の者”でした。

 

しかし、幼いぼくはそれが怖いものであるという認識はなく、ただ“時々現れるおじさん”程度にしか思っていなかったように思います。いつ現れたのかも、なぜ現れたのかもわからないおじさんでしたが、実際、全く無害な存在のようでした。

 

ぼくが遊んでいたり、ご飯を食べていたりすると、いつの間にかそこにいて、少し遠くの方から「おーい」と声をかけて、物陰に入っていって消えてしまう。ただ、それだけ。おじさんがどこから来てるのかも、何をしてるのかも、それ以上のことは、全くわかりません。

 

 

 

そんな「おーいのおじさん」も、ある時を境にピタリと姿を見せなくなりました。

もともと、時々姿を現す程度の存在だったので、わたしの方も別段そのことを気に留めることもなく、時は過ぎていき「おーいのおじさん」のことは記憶の片隅に追いやられていきました。

 

 

そして、昨年末のことです。

我が家が全面リフォームすることになったので、仮住まいのアパートへ引っ越すために荷造りをしていたら、クローゼットの奥底にしまわれた古ぼけたクッキーの缶詰を見つけました。

 

「なんだっけ、これ・・・」

と思って、それを手に取った瞬間、記憶が一気に蘇ってきました。

 

おそらく幼稚園の頃だったと思います。

子供部屋で遊んでいたとき、廊下を横切っていくおじさんを見つけました。

「あ、おじさんだ」

と思ったぼくは、クッキーの缶を持ったまま、おじさんを追いかけました。

おじさんは、廊下の少し先、居間の前に立って中の様子をうかがっていました。

後ろからついてきたぼくには、全く気づいていない様子でした。

 

千載一遇のチャンスを前に、ぼくの心のなかにいたずら心が芽生えました。

その無防備な後ろ姿を見て「捕まえてやろう」と思ったのです。

 

ぼくは一度子供部屋に戻ると、おもちゃ代わりにしていた木箱を持ってきました。

そして、おじさんを乱暴に鷲掴みにすると、それを木箱のなかに入れて蓋を閉じてしまったのです。

 

「おーい」

中から呼びかけるおじさんの声が面白くなったぼくは、さらに追い打ちするようにおじさんを缶ごとクローゼットの物陰に放置したのでした。

 

そんな出来事を思い出したぼくは、すっかり埃をかぶったクッキー缶を見て、恐ろしくなりました。この中には、まだ・・・。

 

そんなことを思っていると、木箱の中から昔と全く同じ抑揚のない声が聞こえてきました

 

「おーい」

 

ぼくは木箱をすぐさまゴミ袋に突っ込んで、ゴミ捨て場まで捨てに行きました。

その後のことは、わかりません。

【怖い話】知ってた。

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Photo by toya 写真AC
会社の先輩・Sさんが引っ越しをすると言った時は、おどろいた。
Sさんはつい数年前にマイホームを買ったばかりだと聞いていたからだ。
しかも、繁忙期のうえに引っ越し予定が今週末で、業者が手配できないからオレに手伝ってほしいという。

Sさんの家は交通のアクセスもよい某新興エリアにあって、そこは自然と都会的な空間が融合したような土地で人気も高い。経済ニュースとかを見ると、開発直後からここ数年で物件価格が数千万円上がったという話もあって、まだまだ値が上がるだろうと言われていた。

Sさんはそのなかでも人気の高い駅チカのタワマンを買っていた。
オレも一回遊びに行ったことがあるけど、すごい良いところ。何よりSさんも奥さん、子供もその家をとても気に入っているみたいだったから、不審に思ったんだ。

「何かあったんですか?」
打ち合わせから帰社する電車のなかで相談されたオレは、反射的にそう聞いてしまった。
だけど、言ってすぐに後悔した。
無神経だったかもしれない。何か言いたくない事情がある可能性だってあったのに。

実際、何か複雑な事情があるようだった。
Sさんは一瞬、口ごもって、だけど、何か喉元に引っかかっていたものを吐き出すかのように苦い顔をして、ささやいた。
「これ、お前にだけ言うんだけどさ」
Sさんの話はこうだった。


先週末のことだ。
Sさんが休日出勤を終えて帰宅すると、タワマンの入り口に人だかりができていた。
近くには緊急車両も集まっていて“何か”が起きたことは明らかだった。

急いで近づきながら、手近な野次馬の人を捕まえて話を聞いてみると「殺人」だという。
見ればエントランスの前の石畳に血溜まりができていて、広範囲に飛沫がとんでいるのが見えた。何かとんでもない事件が起きたことは明らかだった。
「マンションのベランダからだって」
別の野次馬がそう言っているのも聞こえた。
転落死…つまり、突き落とし、とういうことだ。

家族が無事か不安になったので、Sさんは警察官に住民だと伝えて通してもらい急いで帰宅したという。
警察官にその場で2、3質問したが、当然答えられないということだった。

結局、奥さんも子供たちも眠っていて、事件には気づいていなかった。
Sさんは安心しながらも、どこの住民が何で殺されたのか、と不安になった。
部外者による犯行ならセキュリティへの不審が生まれるし、住民トラブルならなおさら気味が悪い。

そして、それ以上にSさんを不安にさせたのは、物件価格への影響だった。
自分たちの部屋で殺人があったわけでなくても、共用スペースがあんな風になったのでは建物がまるごと事故物件のようなものだ。
子供が独り立ちしたら転売して老後資金にできるよう、価格の落ちにくい人気エリアの物件を大枚はたいて買ったのに…。
翌朝、妻に報告すると、妻もスマホで地域の掲示板サイトを見ながら「もう噂になってる…」と不安そうにつぶやいた。


同様の不安は、マンション住民全体に広がった。
当然、マンション側にも問い合わせが集まったらしく、緊急で住民説明会が開かれることになった。管理会社が警察から受けた報告を説明するという話だったが、実質は住民に箝口令をしくためのものだった。

管理会社の人間は、集まった住民に現時点でわかっている事件の詳細を報告した。

死んだのは、12階に住むひとり暮らしの老婆であること。
死因はベランダからの転落死であること。
現場検証の結果、他殺であると断定されたこと。
顔見知りの犯行である可能性が指摘されていて、不審者による侵入などの形跡はないこと。
そして、当時、犯行を目撃した人はいなかったこと。
住民への警戒呼びかけができなかったことは申し訳ないということ。
しかし、昨夜の時点では警察も検証中で、まだ自殺とも他殺とも断定できておらず、深夜ということもあり呼びかけできなかったこと…などなど。


詳しい説明を受けるにつれ、Sさん一家はどんどん青ざめていった。
周囲の住民たちのざわめきに交じって何度も繰り返される言葉が、さらにSさんを追い詰めた。
「自殺じゃなかったんだ…」

【怪談】これは怖い話じゃないんですけどね。

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Photo by:はむぱん/写真AC

 

タクシーに乗車中、運転手さんから聞いた話。

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これは怖い話じゃないんですけどね。

 

タクシーの運転手になりたての頃ね。

深夜。駅から離れた丘の上にある住宅街へ客を送っていった帰り、道すがら別のお客さんを拾ったんですよ。

 

街頭も置かれてないような真っ暗な道の、それこそ傍らに竹林が生えてるような寂しいところを走っていたら、急にフロントライトに照らされた女の人影が見えて。すっと、こちらを見て手を上げてるんだよ。細っこい青白い手でね。

 

思わず停まっちゃったんですけど、内心「しまったなぁ」って。

 

わたしもあの頃は新人だったからね。

やっぱり気味悪いじゃないですか。内心嫌だなって思ったんですよ。

人気のない場所で拾う深夜の女性客なんて、まるで怪談じゃないですか。

気づかなかったフリして通り過ぎちゃえばよかったって一瞬後悔したんですけど。

 

でも、よくお客さんの顔を見たら、なんてことはない。普通の女の人でね。

色白ではあるけど、目の輝きもあるしよく見りゃ艶のあるキレイな肌しててね。

服装ももちろん白装束なんかじゃなくて、よく見たら、ごく普通のリクルートスーツみたいなやつなのよ。べつに破れたり、妙に古臭かったり、汚れたりしてるわけでもない。新卒とか、もしかしたらインターンみたいなのだったのかな?

あの頃、そういうのがあったかは知らないけど、そういう印象を受けて。

あ、よかった、人間だったって。

 

後部座席に乗り込んできた彼女の言動も、べつに普通。

「○○通りを××方面へ行ってもらえますか。その後は、またその都度、案内しますんで」

ってよく聞こえるハリのある声で言うんですよ。

 

 

その頃には、わたしも儲かったって思うようになってましたね。

それで彼女の言う通り、車を走らせました。

 

でも、走らせてるうちに、だんだんまた不安になっていったんですよ。

というのも、いくら走っても、彼女が車を停める気配がないんですよ。

ずーっと大通りを走ってると、たまに違う通りに切り替えては、またずーっと走って…の繰り返し。どんどん最初にいた町から離れていくんですけど、彼女は窓の外眺めてるだけで一向に目的地に着く気配がない。

 

不安になったもんで

「どこまで行かれるんですか?」

って私も聞いたんですけど、なんか要領を得ないんですよね。

「ちょっと説明しづらいんですけど、道順はわかるのでそのまま進んでください」

みたいなこと言って、はっきりしないんですよ。でも、そのわりに妙に口調は落ち着いてるっていうか、確信に満ちてるんですよね。

 

 

言ってること無茶苦茶でも、当然のように自信たっぷりに言われるとあんまり突っ込めないみたいなの…わかります? あの感じで丸め込まれちゃったんですよ。今なら適当に愛想よく断れるけど、あの頃は若くて機転もきかないし気が小さかったもんだから、その時はそれ以上は突っ込まずにしぶしぶ運転を続けました。

まぁ、ウチ(のタクシー会社)が歩合率いいのもあって、内心「どこへ行くにしても、稼げるならいいか」って思ってた部分はあります。

 

でも、その後もいっこうに彼女は車を停める気配なくて。

まだかな、まだかなって思ってる内に、県境も跨いじゃって、どんどん景色も山深くなっていくんだけど、まったく彼女は車を停めないんですよ。

あの時はあんまり時間の感覚なかったけど、たぶん距離的に1時間以上は経ってたんじゃないかな。

 

いよいよ不審になってきましてね

メーターもけっこう回ってて「この子本当に払えるのか?」とも思ったのもあるけど、それ以上に気味が悪くなってきたんです。

 

そもそも、この深夜にあんな住宅街の道端で流してるタクシー拾って、こんな長距離走るってやっぱり変じゃないかって。

 

駅前とか繁華街、オフィス街ならこの状況も、まぁ、わかりますよ。

遊んだり、仕事してて帰宅が遅れた結果、終電を逃した…とかね。

そういう時、数万円払ってでも帰宅したいって事情もあるだろうし。

 

でも、彼女を拾った場所は住宅街の道すがらですよ?

ってことは、彼女は十中八九、近所の家を出て歩いてたわけですよね。

まさか、歩いて目的地へ向かってたわけじゃないだろうし、そう考えるしかないですよ。

 

でも、それはそれで不自然でしょ?

こんな時間に、そんな長距離を移動しなきゃいけない事情があるんだとして。

もともとどっかの家にいたんなら、普通、その家から電話してタクシー呼びません?

最初に言ったとおり、彼女を拾った場所は駅からタクシー乗って行くような場所ですよ? バスもとっくに終わってるし、駅に向かう手立てだってマトモになかったんですから。彼女がタクシーをあそこで捕まえられたのは「たまたま」だったんです。

じゃ、彼女はわたしが通りがからなかったら、どうするつもりだったんですかね?

 

 

そんなこと考えてたら、いよいよ寒気がしてきちゃって。

ミラー越しに彼女を見ていたら、なんか、さっきまで普通の女の子だと思ってたお客さんがどんどん化け物じみて見えてきたんです。

 

気づいたら、いなくなってる・・・なんてことないよな?

なんか妙な事件に巻き込まれてるのか・・・?

 

そんなこと考えているうちに気分が悪くなってきて、いよいよブレーキふもうかなって思ったその時。

「あ、このへんでいいです」

 

後部座席から声がしました。反射でブレーキ踏んで振り返ると、彼女は澄ました顔でカバンから財布を取り出すんです。

お支払いも普通にしてくれて。笑顔で「ありがとうございました」と言って、タクシーを降りていきました。

 

最初に言ったとおり、これは怖い話じゃないんで、彼女はべつに幽霊でもなかったし、襲われることもなかったんですけど。

でも、一方で、その後姿を見ながら、ますます気持ち悪い感じに襲われたのは事実ですね。

 

だって、タクシー停めた頃にはもうとっくに人里なんか遠く離れてて、

彼女が消えていった場所、建物も道もないただの森だったんですもん。

【実話怪談】セロテープこわい

 

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PH:みひね/写真AC



 

セロテープを見ると、今でも思い出すんです。

 

セロテープって、そう。セロハンテープ。

変ですよね。怖い話をしてる時に、セロテープなんて。

 

 

 

私、上京したての頃、マンションで一人暮らししてたんですよ。

一応オートロックつきのセキュリティがしっかりしたマンションでした。

築年数はそこそこ古そうなんですけど、1階部分の壁がないところは鉄格子でしっかり覆われていて、部外者が侵入できないようになっていました。

その分、夜とかはたしかに安心感はあるんだけど、昼に見ると、マンションにしては物々しい感じがありましたね。

コンクリートの壁も灰色で無機質だったし、なんか暗い感じだったんですよ。

そんなんだから、当時、大学に入りたてだった私はあんまり気に入ってませんでした。

 

 

宮崎の山のなかに暮らしてたので、一人暮らしに理想もあって。

もっとドラマや少女漫画に出てくるようなデザイナーズマンションみたいなオシャレなのを期待してたんですよ。

当初は父親にも難色を示したんですけど、父親はそういうの無頓着なんで。

むしろ、「なんとなく心配」って気持ちが先に立ったみたいで、予算内でセキュリティが一番よかったそこをゴリ押しされました。

わたしも父親に家賃を払ってもらう手前、最終的にはしぶしぶ承諾しました。

 

部屋のなかはキレイにリフォームされてて、明るい雰囲気だったのも妥協できるポイントだったように思います。

 

 

 

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で、その後はそれなりに快適な毎日を送っていたんですけど、2~3ヶ月くらい経った頃かな? マンションの入り口…共用玄関にある自分の部屋のポストを開けた時、なんかフタの隅に…ちらちらちらっ…と揺れるものが見えたんです。

 

なんだろう・・・? って思って見てみると、セロテープでした。細長く切られたセロテープが、建物の外から吹き込んでくる風に揺られて旗みたいに、ちらちらちらって揺れてたんですね。

 

よく確かめてみると、セロテープはちょうどポストのフタを留めようとしているみたいに貼られていたようでした。でも、何のために? だって、テープですからね。普通に剥がれますし、ポストも開きますよね。

イタズラにしても微妙だし、イタズラじゃないとしたら余計に意味がわからないじゃないですか。なんか変だなって…内心気味悪く思いながらも、そのときは忘れることにしました。マンションには子供も住んでたので、その子たちがイタズラしたのかなって、納得することにして。

 

でも、それからというもの、しょっちゅうマンション内でセロテープを見るようになったんです。ポストだけじゃなくて、エレベーターのボタンとか、次第に私の部屋の玄関の表札やドアノブとかにも、セロテープが貼られるようになっていって。

 

最後の方は「ただのイタズラじゃないな」って気づいて、怖くなりました。玄関のドアノブなんて、明らかにわたしを狙ってますよね。

 

それで管理人さんにも相談して張り紙をしてもらったりもしたんですけど、特に効果なし。防犯カメラの映像を確認できないかな…とかも思ったんですけど、なにせ実害がないですし、犯行の時間帯もハッキリはしないんで、そこまでは言えませんでした。

 

 

 

 

でも、次第にセロテープが貼られる場所も悪質になってきて。

ある時、家に帰ったら、通勤に使ってるカバンがあるんですけど。革製のトートバッグのこう・・・持ち手のついていない側面あるじゃないですか。

あそこにセロテープが貼られてたんです。

 

もう恐怖でした。いつ貼られたんだろうって。

電車の中? 歩いてる時? 職場?

いずれにせよ、犯人はわたしのすぐ近くにいたってことじゃないですか。

それこそ、私に危害を加えようと思えば、いつだって手を出せる距離に・・・。

 

さすがに見の危険を感じ始めたので、ダメ元で警察にも相談に行ったんですが、力にはなってもらえませんでした。

一応、親身に聞いているフリはしてくれてるんですけど、被害が「セロテープを貼られてる」だけですもんね。「何か実害が出るようなら、また相談に来てください」と、とりあえず、様子見という結論でした。

 

そうこうしている内に犯人のカゲはどんどん私の日常に入り込んできて、次は職場に持っていっていたタンブラーの底。最終的には職場に履いていっていたパンプスのソールに貼られているのを見つけました。

 

その時点で、私「職場の人間だ!」って。

 

タンブラーは自宅からコーヒーを入れて持っていくんですけど、勤務中は職場の机に置きっぱなしにしていることも多いし。

パンプスも仕事中はサンダルに履き替えていることが多いので、机の下に置いておいたりするんです。

だから、職場の人間なら、隙をついてそれらに貼れるはずなんです。

むしろ、ソールなんて、私がパンプス履いてる間は絶対に貼れないでしょ? 脱いだ瞬間を狙うしかないんですよ。

 

職場の人間だ。まず間違いない。

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PH:ゆきだま/写真AC

 

そう思うと、もう、次は誰が犯人なんだって…。

上司や同僚たちを見回しながら、どんどん疑心暗鬼になっていって。

この中に、私に歪んだ執念を向けている人間がいるって…。

でも、なんで? 私が何をしたの? 犯人は何を目的にしてるの?

 

いろんな疑問が浮かんでくるけど、答えなんか出るわけもなく、

その日はほとんど仕事に手がつかないまま、なんとか終業時間まで耐えました。

 

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PH:丸岡ジョー/写真AC

 

 

その後、帰宅してとりあえず、シャワーを浴びながら色々考えました。

上司に相談すべきか。でも、相談したとして、どうなるというものでもないだろうし。

やっぱり辞職するしかないのかなって。

 

 

 

泣きながら考えていたら、一瞬、火照った頭の中を風が吹き抜けたように、サーッと冷静になって。気づいたんです。わたし。

 

 

 

犯人、職場の人間じゃないんじゃないかって。

 

 

 

思えば、職場じゃなくても、私のタンブラーやソールにセロテープ貼れる格好の場所があるんですよ。そこなら、ある意味で、職場よりもひと目につかずに貼れるんです。

 

その場所が、ここ。自宅だって。

ウチに侵入すれば、わたしが寝てる間とかお風呂に入ってる間とかに、ソールにもタンブラーにも、トートバッグにもテープ貼れるんですよ。

 

いつも気づいたのは職場を出た後だったけど、考えてみればセロテープなんかスグ気づくものじゃないし、いつから貼ってあったかわからない。

家を出る時にはすでに貼ってあったなら・・・もしかして・・・。

 

 

この家に・・・いた・・・?

 

 

そう思った途端、私、シャワーを止めもせずに浴室のドアに手をかけていました。

一刻も早く逃げ出さなきゃって思ったんです。

いつまた犯人がここへやってくるかわからない。はやく。逃げなきゃ。

 

 

 

 

そう思って、浴室を飛び出した瞬間

 

 

 

 

 

パリパリパリッ!

 

 

 

 

振り返ると、浴室のドアを塞ぐように

 

無数のセロテープがびっしり貼り付けられていました。

 

 

 

 

 

介護施設で入所者を睨みつける霊がつぶやいていた一言

無用な恨みは買いたくないもんですが、思いもかけない形で恨まれてることってのはあるもので・・・。

 

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Photo by:sorara/写真AC


 

怒りの声

 

うちの介護施設にシマモトさんっていうおじいちゃんがいてね。

もともと建設関係の会社を経営していた男性らしいんですけど、すごい横柄な人でね。

職員にも理不尽な要求したり、高圧的にモノを言ったりしてくるような人で。時には暴力なんかもしてきて、ぼくも以前介助してたら「手際が悪い」って顔面を殴られたことがあって。もうとにかく厄介な人なんですよ。

 

でも、そのシマモトさんって、持病があってたまに発作を起こしたりするんです。

発作が起きたら早めに処置しないと最悪命にかかわるので、深夜にも“お伺い”って言って定期的に様子を見に行くことになってるんです。

 

でも、ぼくはその“お伺い”が嫌でしょうがなくて…。

いや、シマモトさんが厄介だからじゃないですよ? まぁ、それもあるんだけど、そうじゃなくて、シマモトさんの部屋“出る”んですよ。

 

ぼくが深夜にシマモトさんの部屋に入るでしょ?

そうすると、シマモトさんがイビキかいて寝てるベッドの横に立ってるんですよ。

ランニングにトランクス姿のガリガリの男が。ぼさぼさの脂ぎった髪を垂らして、こう…シマモトさんの顔を覗き込んでるんです。

 

すごい恨めしそうな顔で、シマモトさんの寝顔をじーっとにらみつけながら、ブツブツ言ってるんです。無精ひげの生えた口元を小さく動かして、ブツブツ…って。

 

最初見たときは正直ギョッとして、不審者かと思ったんだけど、なんかああいうのって直感的にわかるもんですね。「あ、これ見えちゃダメなやつだ」って。

叫び声上げそうになるのグッとこらえて、見えてないフリしてシマモトさんの様子だけ確認して、部屋を出るんです。

 

目の端でチラチラ男の姿を見るんだけど、特にこちらに振り向く様子もないし、襲ってくるわけでもないので「シマモトさんに憑いてるんだな」ってなんとなく思ったんです。まぁ、嫌な人なんでね。社長だと金絡みのトラブルとかもあるだろうし、恨み買うようなこともしたのかなって。なんとなく。

 

そのことについて、同僚に話してみたこともあるんですけど、ぼく以外は誰も見たことないらしくて。今年入った新人に聞いても「わからない」「見たことない」って。

誰かなんかわかるかなって思って話してるのに、終いには「で、その人ブツブツ何言ってるの?」って興味本位に聞かれてしまって、まったく手掛かりなし。

 

でも、そうやって質問されて思ったんですけど、幽霊が何言ってるのかって、そういえば一度も気にしたこともなかったんですよね。

ちゃんと聞こえたことがないんですよ。

シマモトさんのイビキがデカイから全く耳に入ってこないんです。

まぁ、そもそもの幽霊の声って聞こえるものなのかもわからないんですけど。

 

 

で、そういわれてみると少し気になってきて。

“お伺い”の度になんとなく聞き耳を立てるようになりました。

目の端で男の様子を確認しながら聞き耳を立てるんだけど、ほとんど聞こえない。

 

たまーにイビキの切れ間に聞こえても

「・・ん・・・ぇよ」

って途切れ途切れの言葉ばかりで、まったくわからない。

そうやって何度も“お伺い”しながら、聞き耳を立てていたある日。

 

不意にピタっとシマモトさんのイビキが止まったタイミングがあったんです。

「あ」

と思って、目の端で男の位置を確認しながら、耳をそちらの方にそばだてて見たら、男の声がハッキリと耳に聞こえました。

低く腹の底から響くような恐ろしい声で、こう言ってたんです。

 

 

 

 

 

 

「見てんじゃねぇよ」

妙な相談の途中で友人の様子が・・・

一風変わった感じのヤツもたまには、ってことで。

 

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Photo by:KlausHausmann/Pixabay

 

妙な相談

悪いな、なんかわざわざ呼び出しちゃって。

それにしても、なんか暑いな。すげえ汗びっちょりだよ。

・・・あ、いや、それはいいんだけど。

 

ちょっとお前に相談にのってほしいことがあって。

いや、妙な話でさ。普通じゃない話なんだ。

だから、お前くらいにしか話せないと思って。

お前、得意だろ? 妙な話。

 

先週の日曜さ、俺、ネットで知り合った女とイルミネーション観ることになってたんだよ。ほら、あの毎年クリスマスくらいにやるダムのさ。評判のやつ。

あれ行くことになってたの。

 

で、車で待ち合わせ場所の駅まで行こうとしたらさ、LINEが来て。別の女。

1回会ったきりで放置してたヤツなんだけど、クソ重い女でさ。

たまーに思い出したように連絡してくんのよ。

 

で、その女さ。その日、クリスマス前の日曜日だったでしょ?

だから「いい加減、どうなってるの?」みたいな感じ。

面倒くさいじゃん? 察せよ、って思うでしょ?

どう考えてもお前、遊びじゃんって。

 

・・・あれ、大丈夫? 話ついてこれてる?

 

でも、ホント暑いな・・・うわ、ほら、見て! 俺のうなじ! 汗ビッチョリ!

あぁ、いや、ごめんごめん。話の途中だったよな。

 

で、さすがにこれからデートだから、ブロックしたの。

そんで、そのまま車走らせて待ち合わせてた女をA駅のロータリーで乗せたんだけど。

まぁ、すっげえ美人なわけよ。なんつーのかな、本田翼みたいな。すげえ華奢で色白で顔も人形みたいに整ってて、ショートカットの似合うめちゃくちゃ美人。ガチ俺のタイプ。

 

これ当たり引いたわ、と。

イイ感じの子だったら、今の彼女と別れて、こいつと付き合おうかなって思ったくらいの美人だったんだよ。

 

で、すげえテンション上がって。

その子もわりと俺のこと気に入ってくれたのか、すごい笑顔で助手席に乗り込んできたんだけど、乗るなりすげえ変な顔すんだよ。

 

で、俺、気になってさ「どうしたの?」って聞いたらさ。

「なんで、クーラー入ってんの?」って。

 

いやいやいや(笑)って。

「なんでって、暑いからに決まってるじゃん」って言ったらさ。

その子、すごい訝しげな顔して「暑い?」って言うのよ。

で、俺も腹たってきてさ。

「いや、暑いからだろ? それ以外にクーラーつける理由あんのかよ」

って怒鳴ったらさ、その子、そのまま何も言わずに助手席のドア開いて車降りるのよ。

俺も急いで降りてさ。

 

「どこ行くんだよ!」

って言ったら、そいつ、ちょっと振り返って。すげえ怯えた顔(笑)。

一目散に逃げてくの。悲鳴まであげてさ。

 

マジ意味わかんねって。

なんなんだよ、クソって。マジなんなんだ、あの女。

「暑い?」じゃねぇよ、暑いだろ!(笑)

 

 

それにしても、あっちぃな。なんで、こんな暑いんだ。

ほら、また、汗。うなじ、こんなに汗かいてんだよ、ほら。

 

暑くないわけないんだよ、こんな汗かいてるんだから。

暑くないわけない。

 

 暑くないわけない。

暑くないわけないだろ。

暑くないわけないのに…。

 

 

 

なぁ、暑いよな? 今暑いんだよな?

体育館でけが人を発見した結果…

高校のころに友人の女の子から又聞きした話。

一次情報にあたってないので、もしかしたら元ネタがあるのかも。

 

バレーの準備

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Photo by:himiko/写真AC

 

休日練習の日、バレー部の女の子Aさんが体育館に行った。練習の準備をするためだ。

 

 

体育館にはすでに先客がいた。

体操着姿の少女が体育館のなかを脚を引きずりながら、体育館の中央を左から右へと歩いている。

よく見れば、少女は怪我をしているようだった。

ひざのあたりから出血しているのだろうか、赤黒い血が膝小僧を通じて室内履きまでべっとりとついているのだ。横顔を見ると、少女の顔は青白く表情も苦痛に歪んでいる。

 

これまで大きな怪我を見たことはなかったので、Aさんはショックで立ちすくんでしまった。助けてあげねばならないのはわかっているのに、声もかけられない。

 

「大丈夫?」

声をかけようと思ったところで、Aさんはっと気がついた。

自分の手を見てみると、体育館の鍵が握られている。

そうだ。Aさんは体育館の鍵を開放して、練習の準備を整えるために集合時間より早くここを訪れていたのである。

 

じゃあ、彼女はどうやってここに入ったのだ?

 

すると、視線の先の少女がこちらへ振り向き、目と目が合った。

少女は言った。

 

「見えるの?」