あけてくれ

奇妙な話を記録するためのブログ。大部分が自分のネタで、他人のネタはそのことを明示しています。

【実話怪談】セロテープこわい

 

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PH:みひね/写真AC



 

セロテープを見ると、今でも思い出すんです。

 

セロテープって、そう。セロハンテープ。

変ですよね。怖い話をしてる時に、セロテープなんて。

 

 

 

私、上京したての頃、マンションで一人暮らししてたんですよ。

一応オートロックつきのセキュリティがしっかりしたマンションでした。

築年数はそこそこ古そうなんですけど、1階部分の壁がないところは鉄格子でしっかり覆われていて、部外者が侵入できないようになっていました。

その分、夜とかはたしかに安心感はあるんだけど、昼に見ると、マンションにしては物々しい感じがありましたね。

コンクリートの壁も灰色で無機質だったし、なんか暗い感じだったんですよ。

そんなんだから、当時、大学に入りたてだった私はあんまり気に入ってませんでした。

 

 

宮崎の山のなかに暮らしてたので、一人暮らしに理想もあって。

もっとドラマや少女漫画に出てくるようなデザイナーズマンションみたいなオシャレなのを期待してたんですよ。

当初は父親にも難色を示したんですけど、父親はそういうの無頓着なんで。

むしろ、「なんとなく心配」って気持ちが先に立ったみたいで、予算内でセキュリティが一番よかったそこをゴリ押しされました。

わたしも父親に家賃を払ってもらう手前、最終的にはしぶしぶ承諾しました。

 

部屋のなかはキレイにリフォームされてて、明るい雰囲気だったのも妥協できるポイントだったように思います。

 

 

 

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で、その後はそれなりに快適な毎日を送っていたんですけど、2~3ヶ月くらい経った頃かな? マンションの入り口…共用玄関にある自分の部屋のポストを開けた時、なんかフタの隅に…ちらちらちらっ…と揺れるものが見えたんです。

 

なんだろう・・・? って思って見てみると、セロテープでした。細長く切られたセロテープが、建物の外から吹き込んでくる風に揺られて旗みたいに、ちらちらちらって揺れてたんですね。

 

よく確かめてみると、セロテープはちょうどポストのフタを留めようとしているみたいに貼られていたようでした。でも、何のために? だって、テープですからね。普通に剥がれますし、ポストも開きますよね。

イタズラにしても微妙だし、イタズラじゃないとしたら余計に意味がわからないじゃないですか。なんか変だなって…内心気味悪く思いながらも、そのときは忘れることにしました。マンションには子供も住んでたので、その子たちがイタズラしたのかなって、納得することにして。

 

でも、それからというもの、しょっちゅうマンション内でセロテープを見るようになったんです。ポストだけじゃなくて、エレベーターのボタンとか、次第に私の部屋の玄関の表札やドアノブとかにも、セロテープが貼られるようになっていって。

 

最後の方は「ただのイタズラじゃないな」って気づいて、怖くなりました。玄関のドアノブなんて、明らかにわたしを狙ってますよね。

 

それで管理人さんにも相談して張り紙をしてもらったりもしたんですけど、特に効果なし。防犯カメラの映像を確認できないかな…とかも思ったんですけど、なにせ実害がないですし、犯行の時間帯もハッキリはしないんで、そこまでは言えませんでした。

 

 

 

 

でも、次第にセロテープが貼られる場所も悪質になってきて。

ある時、家に帰ったら、通勤に使ってるカバンがあるんですけど。革製のトートバッグのこう・・・持ち手のついていない側面あるじゃないですか。

あそこにセロテープが貼られてたんです。

 

もう恐怖でした。いつ貼られたんだろうって。

電車の中? 歩いてる時? 職場?

いずれにせよ、犯人はわたしのすぐ近くにいたってことじゃないですか。

それこそ、私に危害を加えようと思えば、いつだって手を出せる距離に・・・。

 

さすがに見の危険を感じ始めたので、ダメ元で警察にも相談に行ったんですが、力にはなってもらえませんでした。

一応、親身に聞いているフリはしてくれてるんですけど、被害が「セロテープを貼られてる」だけですもんね。「何か実害が出るようなら、また相談に来てください」と、とりあえず、様子見という結論でした。

 

そうこうしている内に犯人のカゲはどんどん私の日常に入り込んできて、次は職場に持っていっていたタンブラーの底。最終的には職場に履いていっていたパンプスのソールに貼られているのを見つけました。

 

その時点で、私「職場の人間だ!」って。

 

タンブラーは自宅からコーヒーを入れて持っていくんですけど、勤務中は職場の机に置きっぱなしにしていることも多いし。

パンプスも仕事中はサンダルに履き替えていることが多いので、机の下に置いておいたりするんです。

だから、職場の人間なら、隙をついてそれらに貼れるはずなんです。

むしろ、ソールなんて、私がパンプス履いてる間は絶対に貼れないでしょ? 脱いだ瞬間を狙うしかないんですよ。

 

職場の人間だ。まず間違いない。

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PH:ゆきだま/写真AC

 

そう思うと、もう、次は誰が犯人なんだって…。

上司や同僚たちを見回しながら、どんどん疑心暗鬼になっていって。

この中に、私に歪んだ執念を向けている人間がいるって…。

でも、なんで? 私が何をしたの? 犯人は何を目的にしてるの?

 

いろんな疑問が浮かんでくるけど、答えなんか出るわけもなく、

その日はほとんど仕事に手がつかないまま、なんとか終業時間まで耐えました。

 

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PH:丸岡ジョー/写真AC

 

 

その後、帰宅してとりあえず、シャワーを浴びながら色々考えました。

上司に相談すべきか。でも、相談したとして、どうなるというものでもないだろうし。

やっぱり辞職するしかないのかなって。

 

 

 

泣きながら考えていたら、一瞬、火照った頭の中を風が吹き抜けたように、サーッと冷静になって。気づいたんです。わたし。

 

 

 

犯人、職場の人間じゃないんじゃないかって。

 

 

 

思えば、職場じゃなくても、私のタンブラーやソールにセロテープ貼れる格好の場所があるんですよ。そこなら、ある意味で、職場よりもひと目につかずに貼れるんです。

 

その場所が、ここ。自宅だって。

ウチに侵入すれば、わたしが寝てる間とかお風呂に入ってる間とかに、ソールにもタンブラーにも、トートバッグにもテープ貼れるんですよ。

 

いつも気づいたのは職場を出た後だったけど、考えてみればセロテープなんかスグ気づくものじゃないし、いつから貼ってあったかわからない。

家を出る時にはすでに貼ってあったなら・・・もしかして・・・。

 

 

この家に・・・いた・・・?

 

 

そう思った途端、私、シャワーを止めもせずに浴室のドアに手をかけていました。

一刻も早く逃げ出さなきゃって思ったんです。

いつまた犯人がここへやってくるかわからない。はやく。逃げなきゃ。

 

 

 

 

そう思って、浴室を飛び出した瞬間

 

 

 

 

 

パリパリパリッ!

 

 

 

 

振り返ると、浴室のドアを塞ぐように

 

無数のセロテープがびっしり貼り付けられていました。