あけてくれ

奇妙な話を記録するためのブログ。大部分が自分のネタで、他人のネタはそのことを明示しています。

介護施設で入所者を睨みつける霊がつぶやいていた一言

無用な恨みは買いたくないもんですが、思いもかけない形で恨まれてることってのはあるもので・・・。

 

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Photo by:sorara/写真AC


 

怒りの声

 

うちの介護施設にシマモトさんっていうおじいちゃんがいてね。

もともと建設関係の会社を経営していた男性らしいんですけど、すごい横柄な人でね。

職員にも理不尽な要求したり、高圧的にモノを言ったりしてくるような人で。時には暴力なんかもしてきて、ぼくも以前介助してたら「手際が悪い」って顔面を殴られたことがあって。もうとにかく厄介な人なんですよ。

 

でも、そのシマモトさんって、持病があってたまに発作を起こしたりするんです。

発作が起きたら早めに処置しないと最悪命にかかわるので、深夜にも“お伺い”って言って定期的に様子を見に行くことになってるんです。

 

でも、ぼくはその“お伺い”が嫌でしょうがなくて…。

いや、シマモトさんが厄介だからじゃないですよ? まぁ、それもあるんだけど、そうじゃなくて、シマモトさんの部屋“出る”んですよ。

 

ぼくが深夜にシマモトさんの部屋に入るでしょ?

そうすると、シマモトさんがイビキかいて寝てるベッドの横に立ってるんですよ。

ランニングにトランクス姿のガリガリの男が。ぼさぼさの脂ぎった髪を垂らして、こう…シマモトさんの顔を覗き込んでるんです。

 

すごい恨めしそうな顔で、シマモトさんの寝顔をじーっとにらみつけながら、ブツブツ言ってるんです。無精ひげの生えた口元を小さく動かして、ブツブツ…って。

 

最初見たときは正直ギョッとして、不審者かと思ったんだけど、なんかああいうのって直感的にわかるもんですね。「あ、これ見えちゃダメなやつだ」って。

叫び声上げそうになるのグッとこらえて、見えてないフリしてシマモトさんの様子だけ確認して、部屋を出るんです。

 

目の端でチラチラ男の姿を見るんだけど、特にこちらに振り向く様子もないし、襲ってくるわけでもないので「シマモトさんに憑いてるんだな」ってなんとなく思ったんです。まぁ、嫌な人なんでね。社長だと金絡みのトラブルとかもあるだろうし、恨み買うようなこともしたのかなって。なんとなく。

 

そのことについて、同僚に話してみたこともあるんですけど、ぼく以外は誰も見たことないらしくて。今年入った新人に聞いても「わからない」「見たことない」って。

誰かなんかわかるかなって思って話してるのに、終いには「で、その人ブツブツ何言ってるの?」って興味本位に聞かれてしまって、まったく手掛かりなし。

 

でも、そうやって質問されて思ったんですけど、幽霊が何言ってるのかって、そういえば一度も気にしたこともなかったんですよね。

ちゃんと聞こえたことがないんですよ。

シマモトさんのイビキがデカイから全く耳に入ってこないんです。

まぁ、そもそもの幽霊の声って聞こえるものなのかもわからないんですけど。

 

 

で、そういわれてみると少し気になってきて。

“お伺い”の度になんとなく聞き耳を立てるようになりました。

目の端で男の様子を確認しながら聞き耳を立てるんだけど、ほとんど聞こえない。

 

たまーにイビキの切れ間に聞こえても

「・・ん・・・ぇよ」

って途切れ途切れの言葉ばかりで、まったくわからない。

そうやって何度も“お伺い”しながら、聞き耳を立てていたある日。

 

不意にピタっとシマモトさんのイビキが止まったタイミングがあったんです。

「あ」

と思って、目の端で男の位置を確認しながら、耳をそちらの方にそばだてて見たら、男の声がハッキリと耳に聞こえました。

低く腹の底から響くような恐ろしい声で、こう言ってたんです。

 

 

 

 

 

 

「見てんじゃねぇよ」