あけてくれ

奇妙な話を記録するためのブログ。大部分が自分のネタで、他人のネタはそのことを明示しています。

ついてくる謎の足音をお祓い→その意外な真実

お月様どうぞ

 

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Photo by:y*****************************m/写真AC
 
 
 
信じてもらえるかわからないんですが、小さい頃からときどき何かに後をつけられるんですよね。
 
最初に後をつけられたのは、わたしがまだ○○(地方の某地域)にいたころ。幼稚園くらいだったそうです。わたし自身は覚えてないんですけど、聞いた話だと母と実家の近くの田んぼ道を散歩した帰りのことだったそうです。
 
母がわたしの手を引いて歩いていると、わたしが何度も後ろを振り返るんです。母は不思議に思って「どうしたの?」って聞くと、わたしが「ぺたぺたさんがきてる」と。
 
母が「ぺたぺたさんって何?」と聞くと、わたしは何やら一生懸命説明してくるらしいんですけど、幼稚園児の説明ですからね。母にはなんのことかよくわからなかったそうですが、ぺたぺたという足音が後ろからついてきてるらしいことはわかったそうです。
 
気味が悪いなと思いながらも、いわゆる「想像の友達」みたいなものかなと思ってそのまま家に帰ろうとしたんですが、その間もわたしは何度も振り返るので母も怖くなってきたらしくて。家に帰ったところで祖母に、笑われるのを覚悟でそのことを相談したらしいんです。
 
 
でも、祖母は笑いませんでした。
それどころか、すぐにわたしをいそいそと抱えあげると靴も履かせずに家の外に出して、慌ててついてきた母に振り返って「今からこの子△△に行って、なるべく人の多いところで“お月様どうぞ”って手を合わせてお祈りしてきな」と言ったそうです。
 
 
△△っていうのはうちから車で40分ほど走ったところにある街でして。商業施設とか飲食店とかが集まる繁華街もある周辺では一番大きな街でした。
 
 
母はなんのことかよくわからなかったそうですが、祖母があんまりに真剣なので何も言えず。わたしに靴をはかせて、車に乗せて〇〇まで行ったそうです。そうして、駅前の雑踏のなかで、わたしに祖母から言われたとおり「お月様どうぞ」とお祈りさせたそうです。
 
その帰り道、わたしに聞くと「ぺたぺたさん」はもうついてきていなかったそうです。
 
 
 
それから後も、わたしは1〜3年に1回くらいのペースで「ぺたぺたさん」に後をつけられました。その度、わたしは祖母の言いつけとおり、〇〇に行ってお祈りをして帰る。自分ひとりで〇〇に行けるようになってからも、それを繰り返していました。
 
 
「ぺたぺたさん」の正体は何なのか、祖母に質問したこともありました。でも、祖母もよくわからないようでした。ただ、昔からそうなる人がたまにいること、家につれて帰らずにお祈りだけすれば、害はないことだけを教えてくれました。
 
 
その後、祖母もなくなり、わたしも大学進学を機に東京に出てきました。東京に来ればさすがに実家からも距離があるから大丈夫かな、と思ったのですが、相変わらず「ぺたぺたさん」は私についてくるようでした。しかも、最悪なことに大学のテニスサークルの合宿中に現れたんです。
 
 
 
サークル合宿の場所は東京のとある離島でした。合宿って言っても、ほとんどグループ旅行みたいなもので。テニスの練習なんてほんの数時間。あとはみんなで海で遊んだり、温泉に入ったりして過ごしていたんですけどね。
 
ひとしきり海で遊んで、車で合宿所に戻った…その時でした。
車から下りると、後ろから「ぺた」って聞き慣れた音が聞こえるんです。
 
うわー、今か…って正直思いました。
日も暮れてるし、これからみんなで晩ごはん食べるってタイミングでしたからね。急に抜け出してお祈りに行ったりしたら、変に思われますよ。第一、土地勘もないから人の多い場所なんてどこにあるかわからないし、そもそもあちこちの店が閉まっていくこの時間に人気が多い場所なんてあるのかどうか。
 
悩んでたら、ふと思いついたんです。
そういえば、わたし、今、人気のある場所にいるじゃんって。
だから、その場でこっそり小さく手を合わせて、「お月様どうぞ」ってつぶやいたんです。
幸い誰にも気づかれずお祈りは終わり、ぺたぺたという音もやんでいました。
わたしは安心して、そのままみんなのあとに続いて合宿所に戻りました。
その日はそのままお風呂に入って、夕食を食べて、みんなでお酒を飲んで……普通に合宿の夜を楽しみました。
 
 
 
しかし、翌朝、サイレンの音でめをさましました。サイレンの音は徐々にこちらへ近づいてきて、合宿所の前で止まりました。
何事かと思っていると、同じ部屋の子たちも不安げに起き上がりました。やがて廊下が騒がしくなったので、部屋を出てみると救急隊員が担架を担いでやってきたところでした。
他の子に話を聞くと、男子学生のMくんが今朝、布団のなかで息をしていない状態で見つかったのだといいます。そのままMくんは担ぎだされて病院に搬送されましたが、もうすでに亡くなっていたそうです。
 
もちろん合宿はその場で中止。
警察も来て事情聴取などされましたが、死の原因は不明。特に争った形跡などもなかったので、事件性はないとしてわたしたちは身元だけ警察に伝えて、予定通りに帰宅することになりました。
 
 
帰りのフェリーは、ほとんどお通夜の会場でした。みんな俯いたまま言葉少なで、女子の中には泣き出す子もいました。
 
 
「何があったんだろう」
Mくんは昨日も海でビーチバレーやったりして元気だったので、誰もがその死を信じられないようでした。Mくんがどんな様子だったか、同室の男の子たちはお互いに聞きあっていました。
 
でも、実をいうと、私には少し心当たりがありました。
 
昨日のあの後…。
 
わたしがお祈りをして「ぺたぺたさん」をお祓いした後、ふと見るとMくんがしきりに後ろを振り返っていたんです。
訝しげな様子で、何度も、何度も…。
 
 
もしかして、あのお祈りは「ぺたぺたさん」を祓うお祈りじゃなくて、憑き物を近くの人に移すおまじないだったのでは?
 
あのお祈りの言葉は「お月様どうぞ」ではなく、「お憑きさまどうぞ」だったのでは?